銀の風

二章・惑える五英雄
―23話・客と主の同時刻―



フラインスに案内され、一行は泊まる部屋に入った。
洞窟という環境にありながら、普通の部屋とさほど違わぬ造りになっている。
壁や形は天然の洞窟そのままだが、
中の調度品は人間でも問題なく使えそうだ。
「はい、ここがあんたらの部屋。
なんかあったら、師匠じゃなくてその辺飛んでる使い魔とかに言ってよ。」
言いつけられた事が終わるや否や、さっさとドアから出ようとする。
「ねーねー、お姉ちゃんって悪魔?」
そこを狙ったように、フィアスが彼女に質問をぶつける。
呼び止められて、面倒くさそうに彼女が振り返った。
「んー、そうだよ。あんたらよりは偉いかな〜。」
彼女自身がドラゴンのルージュよりも偉いかどうかは怪しいものだが、
悪魔が上位種の一種であることは事実だ。
もっとも、悪魔はその中でさらに上・中・下に大きくランクが分かれている。
他の上位種でもそうだが、上と下では能力などが全く違う。
「お前はどうせ、中の下がいいところだろ……。
種族的に俺よりえらいって、よく言い切れるな。」
他の3人と同じ扱いがプライドに障ったのか、
ルージュはわざと彼女の怒りを買う発言をした。
その言葉で、フラインスの見下していたような表情が一変する。
目論見どおりというべきなのだろうか。
「な、な〜にーーー!?
あんたなんか、ただの人間の魔道士にしか見えないじゃん!!
どう見たってあたいより下でしょ!!」
びしっとルージュを指差し、仁王立ちになって怒鳴り散らす。
ムキになっているらしい。
(ねーねー悪魔ってさぁ……、
もうすこしすごいとおもってたんだけど、ちがうのかなあ?)
(ん〜……たしかにそうだよね。
でも、こいつだけ別なんじゃないの?童話の奴よりも間抜けっぽいしさ。)
ひそひそ後ろでアルテマとフィアスが話していると、
今度はそっちにフラインスが指を向けた。
「こらぁ下等セーブツ!!なにあたいの悪口言ってんの!!」
「え、聞こえた?」
思わず、素で間抜けな返事を返す。
その反応も気に喰わなかったらしく、フラインスの顔が怒りで真っ赤になった。
「聞こえたに決まってんでしょ!あたいの耳をなめないでよ!!
ケンカ売ってんの〜?!」
その台詞に、アルテマの闘争心にも火がついた。
「ほんとの事いっただけでしょ!あんたこそケンカ売るんじゃないよ!
出来損ない悪魔のくせに!!」
「なんだって〜〜!!」
バチバチと激しく火花が飛び散る。
男衆は、それを遠巻きに見るより他ない。
「フラインス、ご主人しゃまが呼んでるにゃー。」
と、そこにコウモリの羽が前足の代わりについた奇妙な猫が乱入してきた。
姿が奇妙な上に喋るとあって、思わず一行は目が点になる。
「ね、ねこ??」
驚くリトラの前を、猫らしき生物が無視して通過した。
「あ、ねこうもり。師匠が何だって言うの?」
「遅いから、早く来いって行ってたにゃ。
お客さんとケンカしてたって、ご主人しゃまに報告にゃ〜。」
ぱたぱたという羽音をたて、ねこうもりと呼ばれた生物は飛んで行った。
その後を、慌ててフラインスが追いかけていく。
「待て〜!こらー、ねこうもり〜!」
バタンと乱暴に扉が閉まる。
慌てていたが、一応閉めたのだろう。
「何だったの、今の……。」
突然ケンカの相手がいなくなり、
アルテマは拍子抜けしたように突っ立っていた。
「しーらね。」
ばふっと布団の上で者が弾む音がする。
リトラが寝転んでいたのかと思ってそちらをみると、
寝転んでいたのはフィアスの方だった。
ルージュはルージュで、椅子に腰掛けて水晶球を磨いている。
前のテーブルには、
「ねー、ルージュ〜。あんたって、占い出来るの?」
興味津々という面持ちで、ちゃっかりアルテマが反対側におかれた椅子に座る。
面倒くさそうに、ルージュが顔を上げた。
「昼間はそれで食ってるからな……。で、今それをやれと?」
「当たりー♪え、でもなんで分かったの?」
心底意外そうな顔を見せられ、がっくりとルージュはうなだれた。
「占い師に妖術師……こういう商売やってりゃあな、
自然と他人の心理に詳しくなるもんだ。
大体そうやって聞いてくるときは、やって見せろって来るのが相場だろ。
で、女は大抵占い好き。こんな事、心を読むまでもねえ。」
ざっと判断材料を話してみると、
アルテマは本当に感心したらしく、素直にうなずいている。
―ったく女ってのは……。
扱いにくいくせに、時々妙に単純なんだからよ。
すっかり呆れてアルテマを見るが、
彼女はまだ感心したままなのか気づいていない。
その様子を見て、ルージュは深いため息をついた。
「わかってるんなら話は早いや。ねーねー、占ってよぉ〜。」
何を思ってかは分かりきっているが、
さっきは感心していたかと思えばいきなりこれだ。
普段の彼女からはおよそ想像不能な甘い声でおねだりを始めた。
「だぁ〜、気持ち悪いからその猫なで声はやめろ!」
聞いた瞬間、ルージュの全身に鳥肌がたった。
言われていないリトラまでもが、顔を真っ青にしておののいている。
「え、じゃあ占ってくれるの?!」
なんて現金なんだ。
そう思わずにはいられなかった。
「……あんな気色悪い声を聞かされるくらいならな。」
ルージュは、水晶球を磨いていた手を休めた。
とりあえず、占ってやる気になったらしい。
「やり〜っ!一回やってもらいたかったんだよね〜。」
つまりはそういうことらしい。
確かに、大きな町に住んでいなければそういう機会も無いだろう。
なんだかんだで、やはり彼女も立派な女の子だったということだろうか。
「お前を占うんなら、こっちでいいな。」
そういってルージュは水晶球を脇に置き、代わりに一組のカードを取り出した。
大アルカナ22枚、小アルカナ56枚。
プロの占い師御用達のタロットカードだ。フルセットは、全員初めて見た。
「何だそれ?」
「なになに〜??」

「タロットカードだ。こいつがうるさいからな。
っと、こいつ相手なら小はいらないか……。おい、大アルカナだけでいいな?」
何だかどんどん簡略化されているのは、たぶん気のせいではないだろう。
「だ、だいあるかな??」
「カードの種類の事だよ。ほら、さっさと占いたい事を言え。」
「えーっと……じゃあ、将来あたしが美人になれるか!」
シーンと、その場が静まり返った。
3人とも顔が引きつっているのは気のせいだろうか。
いや、フィアスだけは何でそうなったか分からず困惑しているだけだが。
「悪い、今のは無しだ。」
即座にルージュがそう切り出した。
完全に狙っている。
「何でよ〜〜!!ちょっとあんたら、この場で剣のサビになりたいわけ?!!」
「俺はただ、自分に正直に生きているだけだ。」
しれっとした顔で言い切られてしまうと、余計に怒りは収まらない。
だが、今はお願いする立場なのでそれ以上強く出るのはやめた。
人間など鼻にもかけていないルージュの事だ、
いつ「じゃあやめるか。」といってもおかしくないのである。
付き合いは浅いが、こういう奴であるとは理解していた。
「う゛〜……じゃあ、あたしが将来魔法剣士って長老に認めてもらえるかは?」
少々不満だったが、仕方ないので第2希望を出した。
「んー、まぁそれならいいだろう。ほら、カードを適当に切れ。」
そういって、ぽんとアルテマにカードを手渡した。
ルージュは占う対象にカードを切らせるらしい。
「やった!え〜っと、ところでカードを切るって何だっけ?」
「帰れお前。」

一方、洞窟の中ほどにある部屋は少々あわただしかった。
「師匠ぉ〜、この後どうするの〜?!!」
「いい加減に覚えなさい、フラインス。そこの本に載ってるわよ。」
シェリルに素っ気無く返され、フラインスは不平を言いつつ後ろにあった本を見た。
「え〜っと、え〜っと……。」
「フラインス、そんな事もわかんにゃいのかにゃー?」
「うるさーい!あっち行けねこうもり!」
こぶしを振り回すフラインスのそばから、さっさとねこうもりは避難した。
ねこうもりとは魔界に住む下級魔族の一種で、正式名称はゲイラキャットと言う。
猫の前足にコウモリの羽がついたような姿をしているが、
爪は鋼鉄をも引き裂くほど強力で、本来ならかなり気が荒い。
「フラインス、ねこうもりとじゃれていないで手を動かしなさい。」
シェリルはそう言って、煮込んでいたホワイトシチューの味見をした。
ほんのりとろみがついたクリーミーな味が、口の中に広がる。
野菜の優しい甘みが、鳥肉のうまみといい具合に溶け合っているようだ。
いいあんばいのようだし、これ以上煮込むとジャガイモがとろけすぎるので、
かまどに灯していた火を魔法で消した。
「そっちのお肉は焼けた?」
まだあちらで騒ぐ弟子は無視して、別のねこうもりを呼ぶ。
呼んだねこうもりの方からは、また違う種類のいい匂いが漂ってきた。
「焼けたにゃー。おいしそうなミディアムにゃー♪」
肉の見張りをしていた色違いの2匹のねこうもりが、機嫌良さそうに鳴いている。
よだれを滴らせんばかりに、やたらと目が輝いていた。
どうみても肉をねだっているようにしか見えない。
「はいはい、分かってるわ。そんなに主張しなくても忘れないから大丈夫よ。」
肉汁滴る牛の丸焼きを焼いていたかまどの火を、先程と同じように魔法で消した。
ナイフでねこうもりの数だけ肉を切り取って皿に移す。
あっという間にねこうもりが群がって、我先にと顔を出してくる。
にゃあにゃあ鳴いて、とてもうるさい。
「2切れ食べたら晩御飯抜きだから、ケンカしないで仲良く食べるのよ。」
聞いているのかいないのか、ねこうもり達はひたすら肉にたかっていた。



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今回は休憩してるだけですなこいつら。何がしたいんだろう……(書いた本人が)
次はシェリル姉さんに喋ってもらわないと。……食事しながら。
間がけっこう空いてごめんなさい、本とに。
最近違う物にはまって、ネットサーフィンばかりやってたせいです。(撲殺
あううう……。